「お前のようなひ弱な娘が、こんなところで働けると思うのか?」
それが、ブライア様が私にかけた初めての言葉だった。
その時私は、篭いっぱいの洗濯物を両手に抱えて立ち上がったところだった。突然背中に声をかけられ、驚いて振り返る。そこで目の当たりにした人物に、礼も忘れて絶句した私を誰が責めることができようか。
そこは城の一角にある錬兵場だった。働き口を探していた私がこの城で配属されたのがその錬兵場だった。私の実家は、城下町に居を構えるごく普通の家庭である。しかしその頃はちょうど血なまぐさい戦争が終わった直後で、どこの家も疲弊していた。戦には勝ったが、毎日の生活はとても潤っているとは言えなかった。だから私は働きに出ることにしたのだ。他の家の娘や息子たちも同じように働いていた。私が採用されたのが、たまたまこの城だったというわけだ。
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初日、私は恰幅の良い先輩の掃除婦に案内されて、初めて錬兵場というところに足を運んだ。日の光があまり差さない薄暗い通路を抜け、武器やら何やらが散らかり放題の小部屋を抜け。そして目の前に広がったのが、私の家なら三十は入りそうな大きな平地だった。その平地をぐるりと取り囲むようにレンガ造りの建物がそびえ立っている。ぽっかりとくり貫かれた無数の窓が、錬兵場を見下ろしているように見えた。
そこではたくさんの兵士たちが動き回っていた。一度にこれほどたくさんの男性が集まっているのを見たことがなかったので、私はそれだけでうろたえてしまった。皆が私に気づき送ってくる視線が針のように刺さる。私は居たたまれなくなって俯いた。
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しばらく山のような洗濯物をじっと見つめていたが、それで汚れが落ちるわけではない。ついに観念して、私は篭の一つを手に立ち上がった。耐え切れないほどの汗の臭い。思わず私はぞっとした。
苛立ちを含んだ男性の声が降りかかってきたのはその時だ。
「お前のようなひ弱な娘が、こんなところで働けると思うのか?」
挨拶も何もなく、唐突に存在を否定するような言葉をかけられた。それにむっとするのと、振り返って面食らうのと、ほぼ同時だった。私は混乱した。
目の前に立っていたのは、なんと、剣聖と謳われるこの国随一の騎士ブライア様だった。名門貴族の跡取りでありながら、今度の戦争では一番の手柄を立てたという。この国でおそらくブライア様の名前を知らない者はいない。凱旋のパレードで一際凛々しいその姿に、街中の娘たちが虜になったものだ。もちろん、私も含めて。
そんな騎士様が、なぜこのような錬兵場の隅っこにいらっしゃったのか。分からないが、今はそれどころでなさそうだ。理由はともかく、ブライア様は怒っている。
「ま、まあまあ、ブライア様」
後ろをついてきた男性が取り成すように高い声を割り込ませた。
「ソブル」
「少し話を聞いたのですが、この娘さんはデルト氏の姪御さんのようですよ。ほら、あの鍛冶工の」
思いもよらないところで伯父の名前が飛び出した。伯父は今度の戦争で、貴族向けに実践用の剣を作った。そのコネがあって、私は城で働くことができたのか。
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「それは、他の者の配属と上手く折り合いがつかなかったのでしょう。まあ、彼女には厳しいと監督者が判断すればすぐに異動させるでしょうし」
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思いも寄らぬ人物の登場に動転していた私だったが、二人が話しているのを聞く間に少しずつ平静を取り戻しつつあった。それとは反対に胸の奥から沸き起こってくる、かすかな不満。なぜブライア様のような、私には縁もゆかりもない雲の上のお方が、こんな小汚い場所に現れて私を追い払おうとするのだろう。
ソブルと呼ばれた男性と話し込むブライア様をじっと見つめていると、不意にその端整な横顔がこちらを向いた。
「何か言いたげな顔だな」
息を呑んで私は目を伏せた。剣聖の異名を取る騎士様に意見できるような立場では、到底ない。今すぐ出て行けと言われればそうしなければならない。私は頭を垂れてブライア様の次の言葉を待った。
「やれるのか、お前に。辞める気はないのか?」
出て行け、とは言われなかった。辞めろ、とも言われなかった。だから私は頷いていた。
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そう返して、すぐに内心うろたえる。楯突いたと思われただろうか。そう取られてもおかしくない態度だったかもしれない。
「なら、やってみるがいい。どうせすぐに音を上げるだろうがな」
ふん、とブライア様は踵を返した。えんじ色の隊服を着た背中がすぐに通路の奥へ消える。眉根を寄せて遠ざかる後姿を見つめていた私に、同じく彼を見守っていたソブルという男性が声をかけた。
「まあ、災難だったね。突然でびっくりしただろう」
「……その、少し」
少しなら心強い、と彼が笑ったので、私は顔を真っ赤にして、とても驚きましたと言いなおした。それにますます笑いながら、彼はごく自然に洗濯籠を私の手から引き取ってくれた。
「私はブライア様の部下、ソブル。これからよろしく。ブライア様は時々錬兵場にいらっしゃるんだ。たまたま入ってきた君の姿をご覧になったのだろう」
「……」
「今度の戦でこの城内でもいろいろあってね。裏切りとか逃亡とか、まあ詳しくは言わないけれど。それでブライア様は、使用人の質を高めようとお考えになっているんだ。ちょうどそんな折だったから、ますます君のことが気になったんだろうね」
「私は、ここを辞めた方がいいのでしょうか」
「ブライア様のことを考えてというなら、必要ないよ。ブライア様もすぐに君のことはお忘れになるから。君は君が頑張れるところまでやってみればいい」
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ブライア様はすぐに私のことをお忘れになる。その言葉がぐるりと頭の中を巡った。――私はどこまで頑張れるだろう?ブライア様の言うとおり、すぐに音を上げてしまうだろうか。明日には私のことをすっかり忘れてしまうような人の言うとおり……。
それは、嫌だ。
本当は洗濯物の山を目にした瞬間嫌になっていた。しかし私の意地がその感情を押しのけた。ここで頑張りぬいてみせる。誰にも褒めてもらえなくとも、気にかけてもらえなくとも。
きっと。
それからの日々は、今まで経験したことがないほど辛く苦しいものだった。
この国の戦争は終わったが、私の戦いはあの日ブライア様と向き合った瞬間に始まった。
毎日篭に放り込まれる洗濯物。洗っても洗っても終わることはない。あの広い平地の雑草取りも私たちの仕事だ。休憩所の整理整頓、雑巾掛けも然り。兵士たちから何か頼まれごとがあれば、掃除とは無関係でも断ることはできない。時には城の反対側で見張りをしている兵士への伝言を受け、走り回ることもあった。
錬兵場の掃除を受け持つ使用人の中に、私のような若い娘は他にいない。それで兵士たちにからかわれる羽目にもなった。冗談半分に卑猥な言葉を投げかけられるのはしょっちゅうだ。実際建物の影に連れ込まれそうになったことも一、二度あった。救いだったのは、良識を持ったまともな兵士もそれなりにいたということか。本当に身の危険を感じたときには、誰かが私を助けてくれた。しかしその時決まって彼らは言うのだった。もういい加減、ここでの仕事は辞めるべきだ、と。
働き始めて三ヶ月が過ぎようとしていた。もういいか、と私自身そう思えるようになりつつあった。本当に意地だけでこの場にしがみついていた。憧れだった騎士様に、開口一番邪魔者扱いされたくやしさが唯一の原動力だった。そのブライア様は、以前ソブル様が言っていたように時々錬兵場に足を運んだ。私はまだここにいます、と胸の中でブライア様に話しかける。もちろんブライア様は私などに見向きもしない。私も彼の視界に入り込むのが恐ろしくて、ブライア様がいらっしゃる度に距離を取って極力目立たぬよう気をつけた。そして建物の影からそっとその姿を盗み見るのだ。煌びやかなパレードの中心にいなくても、やはりブライア様は凛々しく眩しかった。
ある日、砂埃にまみれた通路をほうきで掃いていると、不意に視界に影が差した。訓練を切り上げた兵士が通りかかったのかと顔を上げると、やってきたのはブライア様とソブル様だった。私は反射的に姿勢を正し、小さく一礼する。そしてすぐにその場を立ち去ろうとした。やはりどうにもブライア様が苦手だ。しかし意外にも、ブライア様はそんな私を引き止めた。
「逃げることはないだろう」
そう言われると足を止めるしかない。私はほうきを強く握り締めてブライア様と向かい合った。
「名前は?」
「シス=デルトと申します」
「……思ったより長く続いているようだな」
一瞬何のことかと呆けてしまったが、すぐにこの仕事のことだと思いあたった。初日に、私のような娘は使い物にならないと言い捨てたことを憶えていたようだ。私は目礼をして答えるに留めた。
「楽な毎日ではないだろう。嫌気が差すことはないか」
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実際いつも嫌気が差しっぱなし、そろそろ辞めてしまおうとまで考えていたのだが、素直にそれを告げる気にはなれなかった。ブライア様の最初の言葉が私をここへ繋ぐ鎖となっていたことも、やはり告げる気になれない。一言で言えば、意地を張った。
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「変わっているな」
「そ、そうでしょうか。申し訳ありません」
うろたえてそう返すと、ブライア様の後ろで空気のように控えていたソブル様がぷっと吹き出した。
「別に謝る必要はない。……仕事を中断させて悪かったな。続けてくれ」
そしてブライア様は通り過ぎて行った。ソブル様も人好きのする笑顔で私をちらりと見て、その後に続く。しばらくの間、私は遠ざかる二人を見送っていた。強く強く握っていたほうきの柄が汗ばんでいる。
私のことを、認めてくれたのだろうか。
そもそも憶えてくれているとは思っていなかった。ソブル様も、ブライア様は私のことをすぐに忘れるだろうと言っていたのだ。あのブライア様の記憶の片隅に私の居場所があったということが、何だかとてつもないことのように感じられた。
(でも……、嬉しい)
これまで頑張ってきてよかった。心からそう思った。そしてそんな感慨を抱いたのは、ここで働いてからこれが初めてだと気がついた。張りつめていたものが一気に緩んでいくのを感じる。それは心地いい感覚だった。
やはりもうちょっと続けてみようか。単純にも、私はそんなことを思った。
そんな錬兵場掃除の生活は、しかし突然終わりを迎えることになった。
朝、いつものように一番で錬兵場にやって来て、兵士たちに配る水を冷やす準備をしていた時だった。私を雇ってくれた面接官――おそらくは人事担当者が声をかけてきた。隣にはブライア様の側近のソブル様。この組み合わせからして違和感があった。
少しいいかな、と言われた時の私は、頷きながらも目まぐるしくこの状況について考えていた。何故この二人が私のところにやって来たのだろう。何の話があるのだろう。私は何かしただろうか?しかし、これと言って決め手になるものは思い浮かばなかった。
結局は、異動を言い渡されたのだった。しかしその異動先を聞いて私は仰天した。ブライア様の私室の掃除を担当してほしいと言われたのである。ブライア様の私室の掃除。この錬兵場の掃除とは天と地ほどに開きがある。突然そんなところに異動になる理由が分からなかった。
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「想像はついていると思うけど、ブライア様のご希望でね。君のここでの働きを見て、是非にと仰っているんだ。厳しい環境にも不平を言わず頑張る君のような人材を求めていらっしゃる」
「で、ですが。あの、私は根っからの平民です」
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「大丈夫、そんなに大げさに考えないで。ブライア様が不在の時に部屋の掃除をするだけでいいんだ。ブライア様の身の回りの世話をする侍女は別にいるから、基本的にブライア様と顔を合わせることはないし、作法や礼儀が必要になることもない。まあ、ここと同じように掃除をしてくれればそれでいいから。むしろ、仕事は今よりずっと楽になると思うよ」
「ですが……」
当たり前だがそう簡単には頷けなかった。錬兵場と同じ感覚でブライア様の私室に出入りできるはずがない。掃除婦とはいえ、貴族の部屋に入るのならばそれなりに身分ある使用人がつくものなのではないか。根性のある使用人など、探せば他に適任者がいくらでもいるだろう。
固まったまま動けない私を尻目に、ソブル様は面接官に目配せをして彼を帰らせてしまった。面接官も、後は頼みますというように一つ頷いただけで、さっさとこの場を後にしてしまう。これでソブル様と二人きりだ。気分的に、完全に逃げ道を塞がれた。
「前に少し話したことがあると思うけど、今度の戦争では使用人の中にも内通者がたくさん出てね。ブライア様の元で働く使用人達ですら例外でなかった。私達騎士や兵士にとって、自分の部屋というのは唯一安息できる場所のはずなんだ。それすら脅かされるというのは、まあ、ちょっと想像できないくらいの苦痛なんだよ」
「ですが、もう戦争は終わりましたし」
確かに、とソブル様は頷いた。
「だけど私達のような職業に就いていると、いつでも戦いの空気を完全に忘れることはできない。共に戦う仲間は勿論、生活を預ける使用人にも信頼を寄せることのできる人が欲しいんだ」
「私はただの義務感で仕事を続けていただけです。信頼していただくほどのことは何もしていません。ブライア様も、もっとよく見知った方を選ばれた方が」
私は尚も反論した。無駄だと分かっていても抗わずにはいられない。それほどとんでもない話が、今まさに降りかかろうとしているのだ。簡単に流されてしまったら後々とんでもないことになるような気がしていた。
ソブル様は、うーんと小さな唸り声を上げた。こんなこと言っていいのかなあ、となどと呟いている。
「ブライア様はね、君のことよくご覧になっていたよ。最初のうちは、まあ、危なっかしくて気にせずにはいられなかったんだろうね。でも君の仕事振りが板についてきてからは、同じ『見守る』でもその意味合いが変わっておられたように思う。確かに今はまだ、君のことを信頼まではしてらっしゃらないだろうけど、これから信頼していくに足る人だとお考えになったんじゃないかな」
私は耳まで赤くした。ブライア様が私を気にかけてくれていたなど、本当だろうか?
「とにかくね、まあ、一度引き受けてみて。数日体験してもらって、やっぱりどうしても駄目だと思ったら私に相談してくれればいい。角が立たないようブライア様にお話して、また別のところへ異動できるようにするから。約束するよ」
私が抵抗できたのはここまでだった。もうこれ以上は逃れられない。私はかくんと人形のように頷いた。
この日を以って、私は錬兵場を出ることになった。
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